今回は、名古屋地裁で基礎控除額以下の金額を被相続人から相続人に毎年贈与を行っていた定期預金について争われた件で、納税者が敗訴した判例を紹介します。
被相続人は、相続人である長男名義と次女名義の定期預金口座を開設し、その口座に毎年贈与税の非課税範囲内で被相続人の預金口座から資金を贈与していたのですが、「子供に印鑑と通帳を渡したら使ってしまう」として印鑑及び通帳を被相続人自らが管理・運営していました。のちに、被相続人が亡くなり、これらの定期預金は相続人である長男と次女の名義であり、すでに贈与は完結しているものとして相続税の申告の際に相続財産として申告をしていなかったことについて、裁判所の判断は、①定期預金の管理及び運営はすべて被相続人が行っていたこと②銀行に対する手続き一切を被相続人が行っていたこと③関係の証書、通帳及び印鑑も一切被相続人が保管していたこと④相続人から被相続人に指示等をしたことが一切ないこと⑤相続人らの婚姻後も預金名義は旧姓のままであること⑥銀行に提出された非課税貯蓄申告書も被相続人が行っていたこと、これらの事柄を総合的に判断した結果、贈与そのものが行われていないものとされ子供の名義を借りただけの名義預金として相続財産に含める結果となりました。
贈与とは民法において、当事者の一方(贈与者)が無償で自己の財産を相手方(受贈者)に与える意志を表示し、相手方がこれを受諾することによって成立する諾成・片務・無償・不要式の契約であるといわれています。すなわち受贈者が受諾することが必要で、今回のケースにおいて贈与が行われていたか否かについてのポイントとしては、①預金名義の開設を誰が行っていたのか②預金口座に使用されている印鑑は誰のものか③贈与契約書が有効に作成され履行されたか④通帳・印鑑の管理・運営は誰が行っていたか⑤贈与実行時や満期時の手続きは誰が行っていたか等があります。ご自身の子供のためにお金を残してやりたいと思っておられる方は沢山おられると思いますが、単に名義を変更すれば贈与が完結するものでもありませんのでこれらの事に注意を払い、相続税対策として遺族に預金等を贈与したいと考えておられる方は、実行前に最寄りの税務署又は税理士にご相談されることをお勧めします。