お父様が亡くなられたとのことで、長男の松田さん(仮名)からご相談がありました。相続人は、相談者である松田さん本人と、妹と母親(被相続人の配偶者)の3人。
家族関係も良好で、特に問題なく手続きを進めることができると誰もが思っていたのですが、不動産の名義を確認してみると、その一部が祖父名義のままになっていたことに気づきました(祖父は昭和22年に他界)。
祖父名義の土地は自宅が建っている土地であり、相談者にとっては青天の霹靂。過去に相続登記がなされていない理由は、相続人に確認しても誰もわからないとのこと。
通常、被相続人の名義となっている不動産を相続登記しようと思うと、相続人を確定させるために、現時点での相続人すべての戸籍謄本を取得する必要があります。特に、先々代やそれ以上前の世代の場合、相続人が多く存在しているため相続人を確定することは大変な労力が必要となります。ところが今回は、そういった手間なく手続きを進めることができたのです。
その理由は、対象となっている土地の権利部(甲区)に『長期相続登記等未了土地』の付記がなされていたためです。
長期相続登記等未了土地の付記とは、平成30年に施行された法律に基づいたもので、「法務局の登記官が、所有権の登記名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地について、亡くなった方の法定相続人等を探索した上で、職権で、長期間相続登記未了である旨等を登記に付し、法定相続人等に登記手続きを直接促すことができる」ようになったことを意味するものです。
つまり、イチから相続人を調査する必要はなく、法務局がすでに相続人を調査し、確定してくれていることになります。このため、相続登記においても相続を証する戸籍謄本などの提出は不要とされています。
今回は、運良く? 登記されていない土地が「長期相続登記等未了土地」として扱われていたため、相続人の調査と戸籍謄本等の取得をする必要がありませんでしたが、不動産をはじめ、相続手続きを行うためには遺産分割協議は必要です。特に、相続登記がされてないまま放置された財産がある場合、いざ手続きを進めようと思った時には、多数の相続人の同意が必要となり、なかなか意見がまとまらず手続きを進めることができない……なんてことも考えられます。
相続登記を長期間放置しておいても、法務局が相続人を調査してくれることがあるのだから大丈夫とは思わず、そのときに一つ一つ確実に終わらせておくことが大切だと思います。
ちなみに、今回の長期相続登記等未了土地についてですが、相続人は、松田さんのご家族以外に数名増えましたが、特に問題なく進めることができましたのでご安心を。